「ドラえもんのひみつ道具でなにが欲しい?」と聞かれれば、すぐに思い浮かぶのが『タケコプター』『どこでもドア』『もしもボックス』あたりではないでしょうか。
たしかにどれもこれも便利であります。あんな夢もこんな夢もかなえてくれるでしょう。自分も子供の頃は「『もしもボックス』さえあればなんでもできる」と妄想しておりました。
一方、(身体だけ)大人になってから評価が大きく変わったひみつ道具があります。
本稿では究極の家トレを提供してくれる『アスレチック・ハウス』を題材に「階段ウォーク」について考察いたします。
ドラえもんの道具『アスレチック・ハウス』
『アスレチック・ハウス』は、てんとう虫コミックス・ドラえもんの19巻に収録されたエピソードであります。
わずか7ページ、ほぼ野比家の中だけで完結しているにもかかわらず、ドラえもん、のびママ、来客のおばさまが体験した大冒険を余すところなく楽しめる秀逸なお話です。
いつものようにゴロゴロと昼寝をしているのび太を見かねて、無理やり運動させようと考えたドラえもんが野比家の屋根裏に『アスレチック・ハウス』を仕掛けます。
仕掛けている間にのび太は外出してしまうのですが、ドラえもんはそれに気づかないまま『アスレチック・ハウス』を起動します。
ビビビガガガガという怪音とともに野比家全体がアスレチックに早変わり。
ちょうどそこへ、折悪しくのびママが来客のおばさまとともに帰宅して、制止するドラえもんにかまわず家に入ってしまいます。
すると廊下の床がルームランナーのごとき逆走装置と化して全速力でないと前進できず、やっとの思いで階段にたどり着いたら今度は1段が1.5mくらいに巨大化していて全身でよじ登らないと2階に上がれません。
客間では座布団がトランポリンに、障子が重量挙げの重りになってのびママと来客は無理やり筋トレをさせられます。
なんとか『アスレチック・ハウス』を止めようと四苦八苦するドラえもんの目の前に今度は落とし穴があき、案の定とび越えられずに落下します。
穴の中にあった鉄棒にぶら下がって落下を防ぎ、苦手な懸垂でなんとかよじ登って屋根裏にたどり着いたドラえもん。ようやく『アスレチック・ハウス』の停止に成功します。
やっと強制トレーニングから解放され、疲労困憊で倒れているドラえもん、のびママ、来客の3人に、野球を終えて帰宅したのび太が「ゴロゴロしてちゃ体に悪いよ」と声をかけるオチで幕を閉じるのでありました。
(てんとう虫コミックス・ドラえもん 19巻より)
「なぜドラえもんはタケコプターを使わなかったのか」とか、「『アスレチック・ハウス』はリモコンで停止できないと危険なのでは」といったツッコミはナシでお願いいたします。
家トレのニーズが高まっている昨今、筋トレ機材を家中にあふれさせることなく総合運動施設を出現させてしまう『アスレチック・ハウス』はぜひとも欲しいひみつ道具であります。
特に階段の1段1段を巨大化させる機能は、海兵隊の誇る突撃訓練場の「壁越え」と同じ全身トレーニング効果が期待できそうです。
それにしてもあの高機能・・・いかに未来の道具とはいえ、現在のトレーニング機材の相場に照らすと軽く20~30万円くらいはかかりそうです。ドラえもん、あるいはセワシ君はなにを思って高額なトレーニング機材を購入したのでありましょうか。
階段ウォークの消費カロリー
残念ながら『アスレチック・ハウス』は実在しませんが、ごく普通の階段でもそこそこの運動効果は得られるハズです。
そこで、カッコよく中学・高校の物理で習った「仕事」の概念を用いて階段ウォークのエネルギーをジュール ⇒ カロリーで算出しようかと思いましたが、自分は高校物理は赤点だったので早々にあきらめて概算とさせていただきます。
身体活動の強度を表す単位として「メッツ(METs=Metabolic Equivalents・代謝当量)」という概算値が用いられます。これは座った状態の安静時を1メッツとして、生活活動や運動時のエネルギー消費量を推定するための指標です。
厚生労働省『健康づくりのための身体活動基準2013』によると「階段を上る(ゆっくり)」は4メッツです。4メッツはおおむね「自転車に乗る」「卓球」「ラジオ体操第一」あたりと同等の運動強度であります。
消費カロリー(kcal) = メッツ(METs) × 体重(kg) × 運動時間(h) × 1.05
とされているので、仮に体重80kgで1分間、階段をゆっくり上った場合、消費カロリーは、
4(METs) × 80(kg) × 1/60(h) × 1.05 = 5.6kcal
となります。
「なんだ少ないじゃないか」と思われるかもしれませんが、それでよいのです。
1回あたりの負荷が大きい運動では毎日継続することが難しくなります。
階段ウォークくらいの負荷であれば「1~2階ならエスカレーターやエレベーターじゃなくて階段で上がるか」という選択をしやすくなります。
1日の合計で階段ウォークを20分おこなえば、トータルの消費カロリーは112kcalとなり、そこそこのインパクトをもつ運動になるのであります。
運動チャンスを逃すな
当スリム教導隊では「1kcal単位の厳密なカロリー収支計算に腐心すること」にはあまり意味がないと考えております。栄養素の種類や消化吸収効率の違いなど、さまざまな要因によって摂取カロリーと消費カロリーの収支はそこまで計算通りにならないからです。
それでも100kcalクラスの運動となると「しっかり体を動かしている」という自信や動機につながります。もしも貴官が数字好きであれば「階段を20分上ればだいたい100kcal(≒脂肪11g)」という概算値をモチベーションにしていただくことも可能であります。
その場の消費カロリーだけでなく、大腿四頭筋や腓腹筋を強力に使う階段ウォークは毎日継続することで筋肥大につながり、運動代謝向上による相乗的なダイエット効果にも期待することができます。
自分自身、自宅や会社、都内の地下鉄駅の階段をできるだけ歩くようにしております。最初はエスカレーターに乗るみなさんからの奇異の視線が気になりましたが、1か月も続けているとこれらの階段がアスレチック施設にしか見えないようになりました。
ただし「営業先に汗だくで訪れるわけにいかない」といった場面で無理をする必要はもちろんありません。1~2階程度のフロア移動で、時間やシチュエーションに余裕があるなら迷わず階段を選びましょう。オフィスや家の階段だって考え方によっては立派なアスレチック設備なのであります。
階段ウォークが当たり前になってくると、家トレ器具コレクターたる自分としては1台で事足りる『アスレチック・ハウス』がぜひとも欲しくなってまいります。
自分の想像ですが、反重力装置やらタケコプターやらの普及によって、ドラえもんの未来世界には階段というものがほとんど存在しないのではないかと思われます。『アスレチック・ハウス』は、そんな階段の減少による国民の消費カロリー低下を問題視した厚労省あたりの助成を得て開発され、キャッチーな商品として市民に提供されているのではないでしょうか。
どうやら22世紀でも運動不足や肥満は引き続き社会問題のようですね。
ただまあ、「もしも自分の体脂肪率が10%だったら」のひと言で済んでしまうので、けっきょく1番欲しいのは『もしもボックス』ではあります。
- 階段ウォークは立派な運動
- 毎日続けることでダイエット効果が期待できる
- 1~2階くらいのフロア移動には階段を選ぶ