ダイエット中のカンタンな腹筋エクササイズとして推奨されるのが「ドローイン」と呼ばれる運動であります。
背筋を伸ばした姿勢でお腹を引っ込め、その状態をキープしたままゆっくりと深く呼吸します。軽く咳をすると腹筋がギュッと締まるので、その状態を10〜30秒維持すればOKです。たったコレだけで体幹を鍛えて姿勢を改善し、たるんだ腹囲を引き締めることが可能であります。これを電車の移動中とかデスクワーク中に行うことを習慣化できれば、お腹まわりのハイパーメガ体脂肪を解消することにもつながります。
ドローインは座った状態でも立った状態でも実行可能で、それほど大きな動きを伴わないので場所を選ばずエクササイズできるのが特長であります。テレビを観ながらできる家トレとしてもオススメです。
しかしながら、なんと言いますか・・・ドローインって数あるエクササイズの中でもとくべつ面白くもなんともないのであります。
「いつでもできる」からこそ心理的な希少価値が失われてしまい、結果「いつでもやらない」ということになりがちです。
本稿では「カタパルト」の考察を通じて日常生活の中で少しだけドローインの意識を高めることを試みたいと思います。
カタパルト開発史① ~日本編~
「カタパルト(Catapult)」という語は、中世の投石器やスリングで石などを飛ばす器具全般を指しますが、本稿では「艦載機に初速を与えて短距離発進を可能とする艦船の設備」の意味に限定して考察を進めます。
海軍の歴史上、カタパルトが登場したのは第一次世界大戦終結後の1920年代から第二次世界大戦が始まる1930年代にかけてです。戦艦、巡洋艦など飛行甲板を備えていない艦船から水上機を発進させる手段として研究開発が進められました。
翼に十分な揚力を得るための「滑走距離」を確保できない艦載機にとって、まして発進速度まで重視される軍用機にとっては、効率のいいカタパルトの開発は必須でありました。
当初は大砲と同じく火薬の爆発力を利用した火薬式が考案され、巡洋艦などに搭載されました。が、なにしろ大砲に近い原理でデリケートな構造の航空機を発進させるのは無理があり、爆雷装で全備状態の空母艦載機の発艦機構としてはまったく不向きなものでした。
日本では空母用のカタパルトそのものが完成に至らず、太平洋戦争の終結まで航空母艦に搭載されることはありませんでした。日本の空母は風上に向かって走って凧を揚げる要領(いわゆる「風上航行」)で艦載機の離陸速度をかせぐ必要があり、最後まで米国の空母に発艦効率の面で後れを取ることになってしまったのです。
カタパルト開発史② ~米英編~
そんな日本をよそにイギリスでは油圧式カタパルトの開発に成功します。
その技術はアメリカにも供与され、米空母の代名詞ともいえるエセックス級をはじめとする空母群に搭載されました。これにより、多数の艦載機を短時間で発艦させられるという絶大な戦術アドバンテージを得ると同時に、グラマンF6Fヘルキャットのような大型機も問題なく運用できるというメリットも獲得しております。
アメリカ海軍は大型の正規空母だけでなく、工業力にものをいわせて軽空母や護衛空母というカテゴリの艦船を大量に建造し、そこにも当然カタパルトが搭載されました。ミッドウェー海戦、マリアナ沖海戦で虎の子の空母を次々に失っていった日本とは対照的に、アメリカは着々と空母大国への道を突き進んでいったのです。
政治的な思惑はさておき、真珠湾で海軍力の主役の座を大艦巨砲から航空戦力に大きくシフトさせた日本が、自ら証明した空母の威力によって追い込まれていったというのは、なんとも無念な話であります。
戦後のカタパルトは、それまで主流だった油圧式に替わって蒸気式が採用されます。機関のボイラーで発生した高圧の水蒸気をカタパルトで開放することで、油圧式よりも大重量の航空機を高速で射出することが可能となりました。これは空母の推進機関が出力無制限の原子力になったことで実現性が高まった方式といえます。
第二次大戦時のレシプロ機とは比較にならないほど重く失速速度も高いジェット機を、100mにも満たない滑走距離で離陸速度に到達させるには蒸気式カタパルトの存在が欠かせませんでした。
映画『トップガン』で有名になったF-14トムキャットも『インデペンデンス・デイ』で宇宙船と戦ったF/A-18ホーネットも、蒸気式カタパルトなしには空母から発艦することができないのであります。
蒸気式カタパルトの後継としては、「航空母艦の完成形」と評されたニミッツ級の代替で建造が進められているジェラルド・R・フォード級にリニアモーターを利用した電磁式カタパルトが採用されております。おそらくはこの方式がカタパルトと呼ばれる発艦機構の集大成になるのではないかと考えられます。しかしコストや安全性の面でまだまだ課題が多く、将来的にはどうなることやら正直わかりません。
パイロットにかかるG
射出する機体にもよりますが、蒸気式カタパルトによる発進時にかかる力はおよそ3Gといわれております。
普通に地球上にいることでかかる重力=標準重力加速度(9.80665m/s²)を「1G」として、その3倍ものチカラが機体とパイロットに加えられることになるのです。
仮に自分の体重が90kgだとすると全身に270kg分の重量が前方からのしかかってくる計算です。元大関・小錦に乗っかられることを考えると、いかに巨大な力が加わるかがわかります。
カタパルト発進だけでなく、戦闘機の空間機動には当たり前のように3~5Gの力が加わります。そのため戦闘機のパイロットにはGに耐性をつけるための訓練が欠かせず、また脳から下半身に血液が押し流されることで生じるブラックアウトを防ぐために耐Gスーツの着用が求められます。
耐Gスーツには下半身や身体の各所を物理的に締めつけることで脳の虚血状態を防ぐシステムが採用されております。いささか乱暴な気もしますが、今のところこれ以上の耐Gシステムは開発されておりません。
RX-0 ユニコーンガンダムのノーマルスーツはパイロットの身体にかかるGを「薬理的に軽減する」とのことでした。あの超常的な機動性を発揮するためにはパイロットがGに耐え切る必要があるのは理解できますが、いったいどんな薬物がスーツ越しに投与されるものか、ちょっと自分の想像の域を超えております。
カタパルトとドローイン
日常生活の中でおこなう「ドローイン(Draw-in)」に話を戻します。
Draw-inとは「引っ張り込む」とか「引き締める」といった意味で、お腹を引っ込める動作や姿勢のことを指します。英語にするだけでずいぶんと言葉の印象が違うものです。
背筋を伸ばしてお腹に力を入れて引っ込めつつ、ゆっくり呼吸するという単調で面白みに欠ける運動なわけですが、カタパルト発進にイメージを重ねることで思い入れを強くすることが可能です。
カタパルトのイメージは別稿にてモビルスーツの発進シーンをスクワットに重ねたりもしております。やっぱり巨大メカの発進プロセスはサイコーなのであります。
イメージするパイロットや機体はもちろん自由です。
大戦中のレシプロ機からピート・“マーヴェリック”・ミッチェル大尉のF-14トムキャット、アムロ・レイのRX-78ガンダムまで、好みの機体のカタパルト発進を想像します。
カタパルト発進時は3Gの強烈なプレッシャーが前方から襲いかかってきます。これを腹筋で受け止めるイメージで体幹にチカラを込めるわけであります。サイコーにカッコいいパイロットである自分が愛機とともにカタパルト発進する姿に酔いしれることで、ドローインを楽しい瞬間に変えることが可能です。
ただし、仕事中にやりすぎると周囲にあらぬ誤解を招くことになりますのでTPOには十分に注意をはらいます。
ちなみに「アムロ、行きまーす! 」という有名なカタパルト発進時のセリフですが、じつは『機動戦士ガンダム』本編中では第21話の1回しか登場しません。それもガンダムではなくコアファイターで発進した際に発せられています。
似たようなセリフがバンクカットとともに何度も流れたせいでもありますが、たった1回でこれだけインパクトのあるカタパルト発進です。単調で飽きやすいドローインに加えるアクセントにもってこいではないでしょうか。
- お腹を引っ込める「ドローイン」はお手軽な腹筋運動
- いつでもどこでもできる反面、単調で飽きやすい
- カタパルト発進のイメージを重ねることで気分を上げる工夫が可能