突然ですが、自分は自宅のトイレの事を「ソロモン」と呼称しております。
その理由は追ってお話しするとして、本稿では「腸内細菌」の世界について考察いたします。
といってもまだまだ研究途上にあるとされる分野です。今回は専門家諸賢の研究成果を拝借しつつ「腸内細菌おもしろい」と思う “さわり” の部分だけを整理いたします。
「腸活」という言葉が健康メディアを賑わせる昨今、腸内細菌の要点に触れておくことはダイエット戦線にとっても有益と考えます。
それではさっそく見てまいりましょう。
「細菌」の大きさ
微生物の世界はメートルの1/1000であるミリメートル(㎜)、㎜の1/1000であるマイクロメートル(㎛)、㎛の1/1000であるナノメートル(㎚)という単位の世界です。
そのほとんどが裸眼で視認することができない極少の世界であります。
ざっくり大きさの比較をすると「真菌」と呼ばれるグループが3~100㎛、「細菌」が0.5~15㎛、「ウイルス」が20~1000㎚で、細菌はギリギリ光学顕微鏡で捉えることができるくらいの大きさです。
人間の細胞のサイズがだいたい10㎛くらいなので「細菌は人間の細胞より小さい~同じくらいの大きさ」と考えてよいかと思います。
ちなみにウイルスのほとんどは光学顕微鏡でも見ることができず、電子顕微鏡でしかその姿を確認することはできません。
「細菌」のチカラ
細菌は地球上で最も原始的な生物であるといわれます。
現在までにおよそ7000種が確認されていますが、実際は軽く100万種以上が存在すると考えられております。
その生息域は潜水艦の限界深度をはるかに超える1万mの深海から成層圏に近い高度8000m、マイナス50℃の極地から400℃の熱水噴出孔まで、地球上のあらゆる場所に広がっております。
ほかにも細菌の特筆すべき能力としては、
- 酸素を使ってエネルギーを作ることができる
- 食物繊維を分解することができる
- 大気中の窒素を固定することができる
・・・などが挙げられます。
「ん? 酸素なら俺も吸ってるぞ」と思いますが、じつは毒性の強い酸素という物質を介してエネルギーを生成できるのは細菌の中でもごく一部の特殊能力なのであります。
我々が酸素を生命活動に利用できるのは、我々の遠い祖先が太古の時代に酸素利用能力を持った「αプロテオバクテリア」と呼ばれる細菌を自らの細胞内に取り込んだおかげだと考えられております。
取り込まれた元・酸素利用細菌は今日では「ミトコンドリア」という名の細胞のパーツとして理科の教科書にも載っております。
ミトコンドリアはもともと我々の祖先の細胞が別の細菌を取り込んで合体したものだったわけです。
「②食物繊維を分解できる」というのも細菌ならではの特殊能力です。
ウシのような草食動物も自身の消化能力だけで食物繊維を分解することはできません。
4つある胃の中に生息している大量の細菌が、宿主であるウシが食べた草を消化しているのです。そしてウシはその腸内細菌の死骸をタンパク源として吸収することであのムキムキの身体を維持しています。
共生関係とはいえ最後は宿主に吸収されてしまうとは、なんともやるせない話であります。
「③大気中の窒素を固定できる」という能力はもはや生物界の根幹をなす個性と言っても過言ではありません。
タンパク質の構成単位であるアミノ酸やDNAの成分である核酸に必要な窒素化合物は細菌のチカラがないと生成できないのです。
いうなれば生物界を循環する物質の出発点~終着点のすべてを担っているのが細菌という存在なのであります。
腸内細菌のはたらき
ミトコンドリアのように細胞の組織レベルで合体するのはだいぶ特殊な例ですが、我々は他にも目に見えない細菌と当たり前のように共生関係を結んでおります。
人間などの宿主と共生関係にある菌を「共生菌」と呼称します。
そして我々の腸内には共生菌の90%を占めるといわれる「腸内細菌」が生息しております。
その数なんと100兆個! 37~38兆個といわれる人体の全細胞の3倍近い数の細菌が腸内に共生しているのです。
およそ1000種類、重さにして1.5~3.0kgもの一大勢力が我々の腸内で形成されており、腸内細菌の遺伝子量は宿主である人間の100倍を超えるといわれます。
ちょっと大雑把すぎる表現ですが、腸内細菌が人間の100倍の多機能性を有していると考えると、彼らがいかに多様なはたらきをしているかが伺えます。
腸内細菌のうちだいたい20%が人体にとって有益な「善玉菌」、10%が「悪玉菌」、70%がどちらにもなりうる「日和見菌」であるとされています。
まだその全貌は解明されていないとはいえ、最新の研究によって彼らのチカラは食物の消化吸収~排泄、身体代謝、それに身体全体の免疫機能にも大きな役割を果たしていることが明らかになってきております。
100兆の腸内細菌が外部から侵入する細菌やウイルスと直接競合して排除したり、指揮官の役割を担って全身の免疫システムの調整まで行っていると考えられているのです。
本稿執筆時(2020年3月)、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策のひとつは「身体本来の免疫機能を働かせること」であり、感染を防ぐための「換気」「手洗い」に次いで「習慣的に食物繊維を摂取する」などの免疫維持策が一部で推奨されております。
野菜を食べたりスムージーを飲んだりで薬理的な効果がどこまで得られるかは不明なので過剰な期待は禁物です。が、免疫が機能していればウイルスに曝露したとしても重症化を防げる可能性はあると思われます。
いずれにせよ腸内細菌に活躍してもらうことが我々の健康にとって重要だというのは事実のようであります。
腸内細菌への補給線
最前線で戦ってくれる腸内細菌に活躍してもらうには「補給線」の確保が重要です。
補給線の確保は戦略の基本中の基本です。補給物資が途絶えてしまってはガンダムといえども活躍を続けることはできません。
連邦軍の長であるレビル将軍もそれをよくご存じでした。だからこそ孤軍奮闘するSCV-70 ホワイトベースに最後までマチルダ・アジャン中尉のミデア補給部隊を派遣し続けたのです。
腸内細菌の場合、その補給物資は「食物繊維」や「オリゴ糖」といった人体が消化吸収できない食物成分であります。
人体が消化吸収できる栄養成分は、ほとんどが腸内細菌の主要生息域である回腸~大腸に至る前に小腸で吸収されてしまいます。小腸で吸収されなかった食物繊維などを腸内細菌が活動資源とするのです。
ホント、つくづくよくできてる共生関係だと感服してしまいます。
我々が食べる野菜や果物はビタミン・ミネラルの源であるだけでなく、腸内で多様なはたらきをしてくれる腸内細菌たちへの補給物資でもあったのです。
六大栄養素(タンパク質・脂質・糖質・ビタミン・ミネラル・食物繊維)の最後のひとつ、食物繊維は人間よりもむしろ腸内細菌のために摂取していると言うこともできます。
毎日の食事で野菜や果物、豆腐や納豆といった大豆製品、漬け物などの発酵食品を食べることで食物繊維やオリゴ糖をしっかり腸内細菌たちに送り届けてあげましょう。これが「プレバイオティクス」と呼ばれる腸内細菌への支援戦術であります。
支援を受けた腸内細菌たちは消化・分解・吸収の最前線である腸で存分に働き、さらには免疫機能にまで寄与するという大任をまっとうしてくれます。
そうして役割を果たした腸内細菌たちは排泄によって体外に放出されます。大便の重量の30%は彼らの死骸だといわれております。
宿主である我々の健康に重要な役割を果たしてくれたにもかかわらず、悼まれることも弔われることもなく打ち棄てられてゆくのです。
自分がトイレのことを「ソロモン」と呼ぶ理由はここにあります。朝夕のトイレの時間には、多くの犠牲の上に立っている自分という存在を省みずにはいられません。
「待ちに待った時が来たのだ・・・多くの腸内細菌が無駄死にでなかったことの証のために!
再びスリムな健康体を手にするために! ダイエット成就のために!
ソロモンよ、私は帰ってきた!」
- 細菌は最古の生物にして生物界の根幹をなす存在
- 酸素からエネルギーを生成したり、食物繊維を分解したり、大気中の窒素を固定したりする生物界の重要事項はすべて細菌のはたらき
- 腸内に共生する「腸内細菌」は消化吸収だけでなく免疫の役割も果たす
- 食物繊維やオリゴ糖は腸内細菌への補給物資