我われ人間は、たとえ寒冷地でも自ら発する体熱によって生きることができる動物であります。
成人の体温(皮膚体温)は36.5℃くらいが平熱の目安とされております。36.5℃の平熱を維持できていれば、免疫をはじめとする身体の各種機能が最もよく働くからです。
しかし、現代人の多くは35℃前後の低体温状態にあるようです。
体温が低いと免疫機能が低下して、ありとあらゆる病気にかかるリスクが高まります。また、エネルギー消費が少ないため肥満にも陥りやすくなります。
現代人の低体温に対しては食生活の観点からのアプローチが注目されております。本稿では血行促進・体温上昇に効果的であるとされる「ショウガ」について考察いたします。
ヒトの体温恒常性
私事で恐縮ですが、自分はものすごい冷え性であります。
冬になると手足が氷のように冷たくなり、日常生活にも支障をきたします。中学生くらいまでの自分は冷たくなった手を友人の背中に突っこんでは「ダイヤモンドダスト!」などとふざけてまわるバカチンでありました。いま思えば顔から火が出るほど恥ずかしい行為ですが、冷え性ゆえに人並に顔を火照らすこともできません。
そんな自分の当時のあだ名は「変温動物」という不名誉きわまりないものでありました。
今では哺乳類や鳥類が「恒温動物」、爬虫類・両生類・魚類は「変温動物」という単純な分類は生物の実態になじまないということで、もはや古い考え方とされているようです。ハチだろうとサメだろうとそれぞれの生活域に適した体温をそれぞれ異なる方法で発生させており、鳥類や哺乳類だけがとくべつ高等というわけではありません。いや決して自分の負け惜しみとかではなく。
ヒトの体熱産生の方法は褐色脂肪細胞(Brown Adipose Tissue、BAT)による「非ふるえ熱産生」と皮膚血管の収縮による「放熱の抑制」、それに骨格筋による「ふるえ熱産生」の3段がまえです。
「非ふるえ熱産生」はカンタンにいうと褐色脂肪細胞に含まれる多くのミトコンドリアが運動を伴わずに熱を発生させる方式のことで、クマのような冬眠動物がじっと動かなくても凍死しないのはこの褐色脂肪細胞のおかげであります。
これについてはバッドニュースもあります。日本人など、いわゆる黄色人種の一部は褐色脂肪細胞が脳からの信号を受け取る受容体に遺伝変異を起こしている場合があるそうです。つまり体熱の産生が少なく、そのぶんカロリー消費も少ない体質であることを意味しております。
「省エネ体質」といえば聞こえはよいのですが、自分の「冷え性・デブ体質」もまさしくコレが原因ではないかと思う次第です。
おそらく自分は極寒のシベリアで修行することなどできなかったでしょう。あの金髪の聖闘士はスゴかったですね。彼の名前は・・・
あ、本稿はショウガの話でした。本題に戻ります。
ショウガの歴史
ショウガはインドや中国で紀元前から食用・香辛料もしくは生薬として使われていたとされております。
生ショウガを乾燥させたものを生姜、蒸してから乾燥させたものを乾姜と呼び、いずれも風邪の症状緩和や胃腸の冷えによる内臓機能低下を防止する目的などに広く用いられます。乾姜の方がより強い辛熱性質があるとされ、症状に応じて使い分けられます。
日本でも『古事記』に記載が見られるなど、奈良時代には中国から伝わってショウガ栽培が始まっていたようです。すりおろすか千切りで豆腐や刺身の薬味として、あるいは寿司に欠かせないガリのような甘酢漬けとして食すのが一般的です。
ヨーロッパでもショウガは古くから利用されていましたが、気候が栽培に適さなかったために輸入が主体でありました。ジンジャーエールやジンジャークッキーのようなスパイスとしての用途が多いほか、風邪をひいたときにジンジャーティーを飲む習慣があったりと、漢方と同じく辛熱性質を生かした用途が定着しております。
このようにショウガの「身体が温まる」という性質は洋の東西を問わず古くから知られ、幅広く用いられてきました。シベリアのような寒冷地であっても、ジンジャーティーを飲めば体温を保持する役に立ってくれることでしょう。必ずしも極限まで小宇宙を燃やしたりしなくても大丈夫です。
そういえばあのクールな性格の聖闘士は、ええと・・・
ああスミマセン、ショウガの話でしたね。失礼いたしました。
ジンゲロールとショウガオール
ショウガの辛熱性質はおもにジンゲロールとショウガオールという成分によるものです。
これらは化学的にとても近い成分です。生の状態ではほとんとがジンゲロールで、加熱や乾燥によって一部がショウガオールに変化します。そして、ショウガオールの方がより強い辛熱性質をもつとされております。
つまり、生のショウガをすりおろしたり千切りにしたりといった日本食の用途ではショウガの潜在能力=ショウガオールをじゅうぶん引き出しているとはいえないというわけです。日本語の「ショウガ」をもじった成分名なのにちょっと残念な話です。ショウガの秘めたる力を引き出すには師カミュの導き(冷却)よりも加熱や乾燥の方が有効なのであります。
ただ、加熱といっても豚肉の生姜焼きのような超高温の加熱だと逆効果で、ショウガオールを通り越して別の成分に変質して辛熱性質の大半を失ってしまうといわれております。
ショウガオールの生成に有効な温度は80~100℃、30分~3時間程度のじっくりとした加熱が適しているとされます。いちど蒸して乾燥させた乾姜の方が生姜よりも辛熱性質が強いのも道理というものです。先人の知恵には本当に頭が下がります。
調理の工夫によってショウガオールが増えれば、体温上昇によるダイエット・免疫効果が期待できます。蒸し器で30分~1時間程度じっくり蒸してから乾燥させたり、あるいは鍋ものや味噌汁に入れるのも効果的であります。
自分は日常的にジンジャーティーを飲用しております。その際は紅茶をカップに注ぐのではなく保温効果の高い水筒に淹れ、そこへ少量のショウガを加えることで「80~100℃・30分~3時間」というショウガオールの生成条件に近づけております。
この「水筒ジンジャーティー」でどのくらいのショウガオールが生成されるものかはわかりませんが、長年苦しめられた氷結地獄のような冷え性はだいぶ低減されていると感じます。
もし貴官が自分と同様に慢性的な冷え性だったり血行不良や低体温症の自覚があれば、食生活にショウガを取り入れることをオススメします。平熱を1℃上げることはウイルス禍でも有効な免疫力アップ方法であると同時に、キツい筋トレで骨格筋を増量するよりもずっとお手軽なカロリー消費手段でもあります。
ただし、もともと身体が火照りやすい場合はあまり推奨されませんので注意を要します。
そういえばあの氷の闘技を使う白鳥星座の聖闘士は・・・やっぱり彼も極寒の地での修行中はジンジャーティーを飲んでいたのかもしれませんね。
- 人間の理想的な平熱は36.5℃だが、現代人は35℃くらいの低体温である場合が多い
- ショウガの辛熱性質は古くから知られ、世界中で用いられてきた
- より辛熱性質を高める成分であるショウガオールは加熱・乾燥によって増える
- 80~100℃で30分以上じっくり加熱するとショウガオールが生じやすい