現代を生きる我々はかつてないほど目を酷使する環境下にあります。
睡眠時間を除けばなんらかのモニターを見ない時間の方が少ないくらいではないでしょうか。
目の疲れは全身疲労につながります。そうなるとダイエットどころか日常生活にも支障をきたします。目をやられて古代遺跡の崩落に巻き込まれたムスカ大佐の最期は、それは悲惨なものでありました。
なんとか食生活の観点から目をフォローできないでしょうか。
本稿では「目に良い」といわれる食材の代表格・ブルーベリーについて考察いたします。
ブルーベリーとは
「ブルーベリー」というと一種類のフルーツのようなイメージですが、じつは数百種類もの品種に細分化されます。
ツツジ科スノキ属に分類されるさまざまな落葉低木果樹のことをまとめて「ブルーベリー」と呼称するのであります。
原産地である北アメリカでは古くから食用とされており、20世紀に入ってさらに品種改良が進んで6系統・数百種におよぶ一大カテゴリを形成するに至っております。
大きなタネもなく、独特の酸味をもつジューシーな果肉は、食卓のフルーツのバリエーションを豊かにしてくれます。
生のまま食べるのも良いですし、ジャムに加工したり冷凍してヨーグルトに混ぜたり、パフェやケーキのトッピングに使用したりと、さまざまな食べ方があります。
自分も市販の冷凍ブルーベリーをヨーグルトに投入して食べるのが大好きですが、腹部にハイパーメガ体脂肪を抱えていた頃はブルーベリーとほぼ同量の砂糖もいっしょにぶち込んでおりました。
今にして思えば「なんてことしてたんだ」と反省しきりであります。
ブルーベリーは本当に目に良いのか
本題です。「ブルーベリーは目に良い」という昔からの定説は果たして本当でしょうか。
「ブルーベリーの紫色を発色するアントシアニンが夜間視力の向上や視力回復に効果がある」というのがその主旨なわけですが、残念なことにコレを明確に示す信頼性の高いデータは存在しないようです。
そればかりか「動脈硬化を防ぐ」「老化を防ぐ」「炎症を抑える」といったブルーベリーのアントシアニンにまつわる逸話の数々も十分なエビデンスが揃っていないとされており、日本ではアントシアニンを薬効成分とした医薬品は認可されておりません。
ブルーベリーサプリメントならたくさんありますが、それらはあくまでサプリメントであって医薬品ではないというのは注目すべき点です。
しかし、それならなぜ「ブルーベリー=目に良い」説がこれほど世界中に流布されているのでしょうか?
探っていくとどうも話の出どころは第二次世界大戦中の英国空軍にあったようです。
猫目のカニンガム
第二次大戦当時、単発戦闘機の性能向上で双発戦闘機はその役割を奪われつつありました。そんな双発機に見出された活路のひとつが「夜間戦闘機」という用途でした。
双発機は機動性の面で単発機に劣るものの、複座ゆえに「操縦士と射手/通信手を分業できる」あるいは容量に余裕があるので「デカい爆撃機も落とせる大口径の航空機関砲」や「開発されたばかりでかさばるレーダー機器」を搭載できるといった夜間戦闘機向きのメリットがありました。
ドイツ空軍の夜間爆撃に手を焼いていた英国空軍にとって、これを迎え撃つ夜間迎撃部隊の整備は急務であり、何種類かの夜間戦闘機が開発・採用されています。そこに双発機がフィットしたのはある意味、必然でありました。
中でもDH.98 モスキートの夜間戦闘機型・NFシリーズはそのレーダーの威力によって高い戦果を挙げております。視界ゼロのはずの夜間戦闘で次々と爆撃機を撃墜するモスキートは、まさしくドイツ空軍の天敵だったのであります。
そうなると今度はドイツ軍による対抗策を避けたくなるのが英国の立場というもので、モスキートの挙げる夜間戦闘の戦果がレーダーによるものであるという事実を隠匿する必要性に迫られます。
いったい何だったらレーダー以外の説得力ある理由づけができるでしょうか。
英国情報部が目をつけたのはエースパイロットのジョン・カニンガムでした。
「イギリス空軍夜間迎撃部隊のパイロットはものすごく目がいい。なぜなら彼らは毎日ビルベリー(ブルーベリーの一種)のジャムを食べているから。ビルベリーに含まれるアントシアニンが彼らの夜目に絶大な効果をもたらしているのだ」
といった具合に情報部の喧伝材料にされたカニンガム。ついには「猫目のカニンガム(John “Cat’s-Eyes” Cunningham)」というニックネームまで与えられてしまいました。
英国の夜間迎撃部隊の卓越した能力は、レーダーという新兵器ではなく毎日ブルーベリーを食っているパイロットのすさまじい視力のなせる業だと吹聴したわけです。なんだかマーベルコミックのヒーロー誕生秘話みたいですね。
しかしまあ、そんな与太話をまともに信じるほどドイツ軍もアホではなく、ほどなくドイツ軍機にはモスキートのレーダーに捕捉されたことを警告するNaxos ZRレーダー探知機が搭載されます。そりゃバレますって。
しかも、あろうことか当のカニンガムは大のネコ嫌いで、「猫目」と呼ばれることをひどく嫌がっていたというオチまでついております。
こうしてモスキートが大戦果を挙げる一方で英国情報部のプロパガンダ作戦は見事に失敗に終わり、後世には「ブルーベリーのアントシアニンは英国空軍の戦術に採用されるほど目に良いらしい」という部分だけが誇張されて残ってしまったというわけです。
本当にもうニャンということでしょう。
スムージーで飲む
以上のように、巷で語られる目に関するブルーベリーの薬効の話は都市伝説の域を出ておりませんでした。自分もおおいに期待していただけに無念であります。
「バルス!」と唱えられた瞬間にムスカ大佐がブルーベリーをガツ食いしたとしても結果は同じだったでしょう。
残念ながら当スリム教導隊において「ブルーベリー=目に良い」説は採用できませんでしたが、だからといってブルーベリーが身体に良くないというわけではありません。フルーツの中でもあまり糖質が多くなく、それでいてビタミンが豊富な優秀食材であることは間違いないのであります。
最近の研究では糖尿病の指標のひとつである「インスリン抵抗性」の改善に効果が見られるなど、目がどうこうより抗酸化作用やダイエット効果にある程度期待できそうなので、引き続きブルーベリーは積極的に摂取したいと思います。
ヨーグルトに入れてもよいですし、スムージーの材料にするのもよいです。
別稿でご紹介したグリーンタイプのスムージーと同じく、豆乳をベースとしたブルーベリースムージーはタンパク質・ビタミン・ミネラル・食物繊維をバランスよく摂取できるのでダイエット中にオススメの一品であります。
- 「ブルーベリーは目に良い」という明確なデータはない
- もともとは英国空軍のプロパガンダだった可能性がある
- 過剰な期待はせずビタミンが豊富なフルーツとして食べたい