「右手で大きく円を描いてワックスをかけ、左手でそれを拭き取る」
空手の達人・ミヤギ老人がダニエル少年に課したのはカッコいいパンチでもキックでも、まして空手の型ですらなく、自動車のワックスがけや庭の板塀のペンキ塗りといった日常的な雑用ばかりでした。
しかし、この雑用こそが空手の動作を体得するための修行だったのです。
本稿では映画『ベスト・キッド(原題:The Moment of Truth / The Karate Kid)』を題材に「日常を修行にすること」をダイエットに応用したいと考えます。
※昔の映画ですがネタバレを含んでおります。あらかじめご了承ください。
傑作映画『ベスト・キッド』
『ベスト・キッド』は1984年制作のアメリカ映画であります。
主人公の内気な少年・ダニエルは母親の仕事の都合でとある街に引っ越してきます。そこで不良グループのボス・ジョニーの元カノと仲良くなってしまい、激怒したジョニーにボコボコにされます。ジョニーとその取り巻きは不幸にも(幸運にも?)街で幅をきかせている空手道場「コブラ会」のメンバーだったのです。
すっかりジョニーたちに目をつけられてしまったダニエル。でも空手の実力者であるジョニーにはとても勝てません。せいぜいトイレの個室にいるジョニーに上から水をぶっかけて逃げるのが関の山でしたが、すぐにとっつかまってしまいます。5人に囲まれてヤバいくらいボコられているそのとき、ダニエルのアパートの管理人・ミヤギ老人が現れ、瞬く間にイジメっ子たちを倒します。飄々とした日系の老人は剛柔流空手の達人だったのです。
後日、和解のために「コブラ会」道場を訪れたダニエルとミヤギでしたが、やられっぱなし(自称)でメンツが立たない道場側の要求で2か月後の空手大会で決着をつけることになり、圧倒的な実力差を覆すべく修行を開始します。
しかし、ミヤギ老がダニエルに課したのは自動車のワックスがけ、床板の紙やすりがけ、板塀のペンキ塗りといったアメリカでは日常的な雑用ばかりで、ダニエルが期待したような特別な空手の修行はいっこうに始まる気配がありませんでした。
雑用に明け暮れる日々を送るうちに、さすがにおかしいと思ったダニエルが「いったいいつになったら空手を教えてくれるのか」と師・ミヤギに詰め寄ると、師はとつぜんダニエルに正拳突きを放ちます。が、それをダニエルは紙一重で防ぎます。師の突きを防いだダニエルの挙動はなんと自動車のワックスがけそのものでした。
師の攻撃をワックスがけ、紙やすりがけ、ペンキ塗りの動作でことごとく防ぐ自らの変化に驚くとともに、単なる雑用とばかり思っていたミヤギの教えの真の意味をダニエルはようやく理解します。たぶんこのへんが副題『The Moment of Truth(真実の瞬間)』なんでしょうね。
そこからは波打ち際やボートの縁でバランスの練習に入るなど実践的な修行が始まります。徐々に空手らしい型を身につけていき、最終的に杭の上で両腕を広げて片足立ちの状態から前飛蹴りを繰り出すミヤギ老の奥義「
そして2か月後の空手大会。修行を終えたダニエルとジョニーたち「コブラ会」との決着は・・・ぜひ映画でお確かめください。
ツッコミどころも
名作『ベスト・キッド』も80’s映画らしく、ツッコミどころが満載です。
ハリウッド映画の宿命なのか宿業なのか、「日本に関するテキトーな描写」は本作でもちらほらと見られます。
他にも公開当時からよく言われていたのが「ミヤギが日本人に見えない」とか「あのワックスがけは本当に空手の修行なのか」とか「『コブラ会』なんて悪そうな道場に誰が入りたがるのか」とか。あるいは「陰湿な仕返しを企んでかえってイジメをエスカレートさせるダニエルがアホすぎる」といったツッコミの数々でした。
ヘンクツ者の自分はエンドロールまで気になってしまうタチでして、敵役のジョニーを筆頭にワキの名前がボビー、トミー、ジミー、ジェリー、ビリーと手抜き感満載だったのにはニヤニヤが止まりませんでした。最初ダニエルと仲良くなる友達でさえフレディー(フレンドだから?)という。
そのへんはまあ、娯楽映画の一部として割り切ればよいかと思います。『ベスト・キッド』にはそんな些末事を吹き飛ばしてあまりある秀逸な要素が満ち溢れております。
ミヤギ老が実は大戦中に日系人部隊の一員として従軍経験があり、最終階級は軍曹で叙勲も受けた優秀な軍人であったという事実は、派手さこそないものの感銘をおぼえる描写でありました。
敵である日本の血を引いているということで、アメリカ国内で差別や偏見の対象となって家族ごと収容所に押し込められた当時の日系人たち。その悲哀と相反するアメリカ人としての誇り、献身的で自己犠牲をいとわない勇猛果敢な戦いぶりは今も語り草になる日系人部隊の史実であります。
なにより「なにげない日常の動きが修行になる」というミヤギの教えは「バランスは空手だけでなく人生のすべてだ」など数々の名言とあいまって、本作を単なる“青春もの”、“リベンジもの”で終わらせない奥深さを与えております。人生や日常生活における大事な気づきを与えてくれる、まさしく「真実の瞬間」なのであります。
日常が修行か、修行が日常か
ひるがえってダイエットのハナシです。
ダイエットというとなにか特別なことをしないといけないと思いがちですが、特別なことは特別であるがゆえになかなか長く続かないものです。
科学的で合理的な筋トレもおおいに結構です。できるならばやるべきです。しかし一念発起して筋トレを始めたとしても1年後の継続率はたったの4%というデータがあります。100人が筋トレを始めても1年後まで続けている人は4人しかいないのです。
であるならば「正しさ」や「効率の良さ」だけでなく「誰でも長く続けられること」を重視してもいいのではないでしょうか。ここはミヤギ老に倣って日常にプラスアルファの修行を取り入れてみましょう。
自分の数少ない友人のひとりは定番の「ひと駅手前で降りて歩く」を実践したところ、だんだんのめりこんで降りる駅が手前になっていき、とうとう会社からの帰途をすべて徒歩にしてしまったそうです。結果、1か月で4kgの減量を果たしておりました。
人間の習慣力は継続すればするほど効果を生み出すものであります。
自分の場合は『ベスト・キッド』よろしく、風呂洗いの負荷を少し高める要素を2つ取り入れてみました。
風呂で修行
- バスタブを洗う際に食器用のスポンジを使う
- 入浴時に鏡を磨く
①はあえて柄つきの風呂洗い用スポンジではなく食器用スポンジを使うことで身体を大きく動かす工夫です。わずかな差ではありますが、これは地味に効きます。
②は、鏡磨き用の「ダイヤモンドうろこ取り」を使って入浴のたびに鏡を磨くという、これまた地味な動作であります。右手で100回、左手で100回、鏡を上下に磨きます。力を込めてこすれば指先から前腕、上腕二頭筋だけでなく大胸筋や背筋あたりまで効いているのが実感できます。修行になるし鏡もキレイになるしで、まさに一石二鳥であります。
これらの習慣は半年で約20kgの減量を果たした後もずっと継続しております。
貴官もぜひ『ベスト・キッド』を思い出して「日常」と「修行」を同化させ、長期継続できる習慣を形成しましょう。
- 『ベスト・キッド』は一度は観るべき名作
- 日常生活に修行の要素を取り入れる
- 「多めに歩く」「風呂洗いの負荷を上げる」など、なんでもいい
- 長く続けて習慣化するのが大事